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仙台高等裁判所 昭和40年(行ス)1号 決定 1965年6月09日

抗告人(被申立人) 福島県教育委員会

相手方(申立人) 白川角美

主文

原決定を取消す。

本件転任処分執行停止の申請を却下する。

申請費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

本件転任処分執行停止申請の趣旨、理由は別紙(一)、本件抗告の趣旨、理由は別紙(二)のとおりである。

行政事件訴訟法による執行停止は、処分取消の訴の提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行に因り生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があることを要件にすると共に本案について理由がないと見える時はこれをすることができないのであるから、まず本件の本案について理由がないと見えるか否かの点を判断する。

抗告人提出の資料(疎第一乃至一〇、一五乃至二〇号証、昭和四〇年六月一日付及び同月二日付上申書)、原審における折笠与四郎、当審における抗告人代表者各審尋の結果並に相手方提出の資料(疎第一、一五号証)によればつぎの事実が疎明される。

抗告人は福島県下における昭和三九年度末の小・中学校教職員人事につき、人事の刷新交流を図る見地から別紙(三)のとおりその基本方針を樹立すると共に別紙(四)のとおり明確な実施要項を定め、採用、転補、退職を含めて総計三、六八四名に及ぶ人事異動(そのうち管外への転出は六三八名)を実施したのであるが、この人事異動計画においては右実施要項の定めるところに従い、当初校長、教員、事務職員を合せ合計二三七名の者に退職を勧奨することとされていた。

相手方は福島県河沼郡合津坂下町立八幡小学校に勤務する教員(県費負担教職員)で昭和四〇年三月三一日現在五八才五月に達するため右要項の基準(五五才以上)に該当し、当時の本俸は月額金六七、七〇〇円で今回の退職勧奨に応ずれば金三八〇万円余の退職手当と年額金四一万円余の年金を受けられる地位にあり、且つ一町五反歩余の田畑と三六〇坪余の宅地、建坪九〇坪の家屋を所有しており、今後の生活も一応保障されていると考えられたので右被勧奨者の一人として同年二月二七日頃から退職の勧奨をうけることになつた。

右勧奨の経過は同年三月二四日現在で前記二三七名のうち三六名の者がこれに応じられないとの意向を表明している状態であり、相手方もその一人であつた。そこで抗告人は右事態に鑑み同日事務局各出張所長に対し、退職勤奨拒否者については今後勧奨に応じて退職した者に対する優遇措置としての退職金の割増しと特別昇給をさせることができないことを知らせること、退職勧奨者については当初の人事計画が勧奨に応ぜられるものとして立てられている関係上これを拒否することが明らかになつた者についてはその時点で新たに計画を立てなおしそのまま現任校に留めておくか他に転任を命ずるかを決める必要があるので、それ等の者については新たな配置計画を立てること、その場合事情によつては管外に転出させることもあり得る、なお事情止むを得ない者については弾力ある措置を講ずべき趣旨の事項を指示し、これを被勧奨者にも知らしめて当初計画の勧奨を続行する傍ら、同月二八日その時点における退職勧奨拒否者二三名につき前記基本方針と実施要項に定められている事項、地元教育委員会並に学校長の要望、意見、その者を現任校にそのまま留めておくことの教育行政上の影響、本人の健康上、経済上の状態等について全県的な見地から客観的な配慮を加えた新たな人事計画を立てることとなり、相手方については同月三一日同人を福島県田村郡小野町立夏井第一小学校に転任せしめることに内定した。なお、右二三名のうち相手方のように一応管外への転任が内定せられることになつたのは同人を含めて九名であつた。

相手方の転任がこのように内定せられることになつたのは、(イ)相手方は同年三月三一日現在で前記八幡小学校における在職年数が六ケ年となる者で前記実施要項に定められている交流の対象者に該当し、(ロ)右八幡小学校長は昭和三九年度末人事組織の意見として同小学校教職員の平均年齢は約四二才で他校に比較して高齢なためこれを引上げるよう措置して欲しいと要望しており、右会津坂下町教育委員会教育長も同旨のことを要望していたし、(ハ)相手方は昭和三七年度以来退職勧奨をうけて三年目であるのでこのまま現任校に留めておくことは地域社会に対する影響もあり他管内の学校に転出せしめることが適当であるとの両沼管内校長等からの批判があり、右金津坂下町教育委員会も同教育長と共に同旨の理由から強く相手方の転出を要望していたのであり、(ニ)新任校の福島県田村郡小野町立夏井第一小学校校長は昭和三九年度末人事組織に関する意見として同校の教職員一七名中男子七名女子一〇名という女子教職員の多い比率であるため男子教員を採用したい。同校において四〇才以上の教員といえば教頭だけであるから経験豊富な男子教員を入れて組織の充実を図りたい、同校は分校を有し本・分校の連絡事務が多いので学校運営上一名の増員方を措置して欲しい旨要望しており右小野町教育委員会においても同教育長と共に同旨のことを要望していたので一名の定数増加が認められることとなり、(ホ)相手方は高血圧症の症状を訴えていたが昭和三九年度中の勤務状況は一四日の年次休暇がある丈で病気のために休暇をとつたことはなく診察の医師も平常の勤務に何等差支えないと述べる程度のもので新任校の学校勤務に耐えられない程の健康とは認められず、又家庭的にも経済的にも他の教職員と比較して相手方だけがこの転任に耐えられないと認められるような特別の事情は認められなかつたという理由によるものであつた。

抗告人は右一応の内定後も、出来るならば勧奨に応じて貰つて当初の目的である教職員人事の刷新を図りたいという意向と将来前記のような優遇措置を受けられない場合の相手方の不利益を考慮する立場から同年四月一〇日まで引続き退職の勧奨を続けたのであるが結局相手方が勧奨に応ずる意思はないものと確認されたので同月一一日前記内定のとおり本件転任処分が発令されるに至つた。

本件に顕れた資料のうち以上の認定に反するものは前掲資料に照して措信し難い。

以上認定の事実によれば、本件転任処分は県費負担教職員の任免その他の人事に関する事項を管理、執行すべき職務権限(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第二三、三七、四〇条)を有する抗告人が客観的な実施要項の基準に従いその裁量の範囲内において適法にしたものと認めるのが相当である。相手方は右転任処分が退職勧奨に応じなかつたことに対する報復的なものであり、退職の勧奨を貫徹せんがためのものであり、更には退職の止むなきに至らしめる目的のみのために行われた処分であると主張し、その提出の資料(疎第二、四、六乃至一一、一四、一八乃至二〇、二二乃至三七、三九乃至四三号証、昭和四〇年四月二二日付報告書)及び原審並に当審における相手方審尋の結果にはこの主張に副うところがないではないけれどもこれ等の部分は前掲資料に照して措信し難く、他にこれを疎明するに足る資料はない。

なお、相手方提出の資料(疎第二、三の一乃至三、一三、一五、三五乃至三八号証、昭和四〇年四月二二日付報告書)と原審及び当審における相手方審尋の結果並に前示認定の事実によれば、相手方は昭和四〇年三月現在本俸月額金六七、七〇〇円の給与を得ているのであるが金四〇万円程の借入金を負担しており、祖母、妻、長男(二九才)、長男の妻(二九才)、三女(二〇才)、孫(七才及び二才)の八人家族(但し、長男夫妻は別世帯で農業に従事している。)で親の代から現住所に約三六〇坪余の宅地、建坪九〇坪の家屋を所有して居住しており、喜多方市の他家に嫁いだ二女(二九才)が肺結核症のため福島県立会津若松綜合病除に入院しているので経済的、精神的に何かと面倒を見る必要があり、妻は以前に病気のため腹部切開をしたことがあつて、その経過が思わしくなくその上肋間神経痛、低血圧の症状もあつて今でも医薬を用いている関係上、相手方が現在の住居を引払つて転任先に赴任するということは事実上仲々困難であり、若し単身で赴任するとすれば下宿代、交通費、帰省費(週一回、月四回として計算した場合)等として月額約金一二、〇〇〇円程度の新たな支出が必要となりその上高血圧症と痔の持病(いずれも平常の勤務には差支えない程度のもの)をもつ相手方としては家族との別居に伴うそれ相応の精神的肉体的苦痛をも負担することになることが疎明されるけれども、県費負担教職員として公の教職に従事する者は当該県内の他の市町村に転任を命ぜられることがあることもその地位に伴つて当然予定されるべきことである(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四〇条)から、以上の程度の個人的な事情があるとしてもそれは右のような公務員である限り止むを得ないものというべきであり、これをもつて本件転任処分が相手方の言うような違法の処分であるというのは当らない。

そうだとすれば本件転任処分は適法であり、本件執行停止の申請は本案について理由がないこと明白であるから却下すべきものであり、これと異る原決定は取消を免れない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九六条、第八九条に従い主文のとおり決定した。

(裁判官 田中宗雄 上野正秋 藤井俊彦)

別紙(一)

申請の趣旨

被申請人が、申請人白川角美に対し、昭和四〇年四月一〇日、福島県河沼郡会津坂下町公立学校教員の職を免じ、同月一一日、同県田村郡小野町公立学校教員に任命し、同町立夏井第一小学校教諭に補するとの転任処分の効力は本案判決の確定に至るまでこれを停止する。

との裁判を求める。

申請の理由

一、申請人は、被申請人の任命にかかる教育公務員であり、昭和四〇年四月一〇日当時、申請人白川は福島県河沼郡会津坂下町公立学校教員の職にあつて、同町立八幡小学校教諭に、補されていたものである。

二、ところで、被申請人は、申請人に対し、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第四〇条の規定に基き、昭和四〇年四月一〇日及び同一一日付で、申請の趣旨記載のとおりの転任処分を発令し、右辞令は、同月一四日、申請人に伝達された。

三、しかし、被申請人のなした右転任処分は、申請人をその意に反し退職させようとして、不当な手段で執ように行なつた退職勧奨が効を奏しないとみるや行なわれた報復的なものであり、かつ、その後も退職勧奨が続けられているところから明らかなとおり、退職勧奨を貫徹せんがための違法の処分であつて、しかも、右転任処分は、全く、現任校、転任校の教育効果との関係では検討されていない違法なもので、単に、申請人に、経済的、肉体的、精神的に過重な負担を強い、退職の己むなきに至らしめる目的のみのために行なわれた不当苛酷な処分であつたので、申請人は、本日、御庁に右転任処分取消の本案訴訟を提起したのである。

四、ところで、申請人は、右提訴にもかかわらず、右転任処分により赴任せざるを得ないのであるが、その場合には、左記のとおり、回復困難な損害をこうむること明らかであり、それを避ける緊急の必要性があると思料するので、ここに右転任処分の効力の停止を求める次第である。

現住所は親の代から居住しているところでもあり、娘が肺結核で県立若松病院に入院しているといつた関係もあつて、現在申請人が扶養している親も含めて、一家全員が転任先に転居することは不可能の状況にあり、結局、単身赴任しなければならないのであるが、妻も病弱であるので、かかる赴任は、申請人にとつて、家庭を放置するにも等しいことで多大の精神的な不安と苦痛を伴うものである。のみならず、申請人自身も、高血圧と痔の持病を有していて、週一回はどうしても必要な帰省を行なつたならば、片道約五時間の道のりのことでもあるので、休日に休養をとることは不可能であつて、肉体的に大なる苦痛・疲労をこうむるのみならず、病気にもなる危険が濃厚な状態におかれている。そして経済的にも、二重の生活により、新たに、下宿料等として約九、〇〇〇円の支出が必要となるのみならず、約三千円の交通費の支出も発生し、現在でも病人等をかかえ、借金を有しての経済生活は、新たな重大な危険に逢着せざるを得ない状況にあるのである。

以上のような状況を放置することは、後日において回復不可能な損害を申請人に負わせることになるので、緊急にかかる損害の発生を避ける措置がとられる必要があるのである。

なお、昭和四〇年四月一四日現在、申請人は、八幡小学校において、三年一組の学級担任として、授業等の教育活動に従事しており、その他にも社会科の主任、国語科の副主任の校務分掌を担当しており、後任人事もないところから、若し、転任すれば、右教育現場には、大きな障害が発生すること明らかであつて、このような公益的立場からも本件転任処分により回復困難な損害の発生が予想されるのである。そしてまた、転任校である夏井第一小学校は、現在、定数どおりの教員が配置されていて、申請人が赴任すれば、過員になるといつた状況にあり、教育的にも、すでに四月当初から、校務分掌も申請人を予定せずに定め、現在、教育活動を円滑に行なつているのであつて、申請人が、直ちに赴任しないことにより、特段の支障が発生するといつたことは全く考えられない状態にあるのである。そして、むしろ、教師の活動の主たるものは、教育的に途中で担当を変えることになじまないので、申請人は、これから先、教師としての主たる活動から切り放されて過ごさなければならないことも考えられ、右処分により多大の精神的苦痛を負うことは明白なのである。

五、以上のとおりでありますので、速やかに右転任処分の効力の停止の決定を出されたく、ここに転任処分執行停止決定申請をする次第であります。

別紙(二)

即時抗告申立書

福島県福島市杉妻町二番十六号

抗告人 福島県教育委員会

右代表者委員長

笠原良平

福島県福島市新町七番十六号

右代理人 弁護士

小野崎正明

福島県河沼郡河東村大字岡田字北台西乙二二八番地

相手方 白川角美

転任処分執行停止決定に対する即時抗告申立

右当事者間の福島地方裁判所昭和四十年(行モ)第一号転任処分執行停止申立事件について、同裁判所が昭和四〇年四月二十四日付をもつてした転任処分執行停止決定は不服につき抗告を申立てる。

抗告の趣旨

右決定を取消す。

本件転任処分執行停止の申請を却下する。

手続費用は全部相手方の負担とする。との御決定を求める。

抗告の理由

一、原決定

相手方は、福島地方裁判所に、抗告人が相手方に対し、昭和四十年四月十日、福島県河沼郡会津坂下町公立学校教員の職を免じ、同月十一日、同県田村郡小野町公立学校教員に任命し、同町立夏井第一小学校教諭に補するとの転任処分は本案判決確定に至るまでこれを停止するとの転任処分の執行停止を申請した(同裁判所昭和四十年(行モ)第一号)ところ、同裁判所は同年四月二十四日相手方提出の疎明資料によると、本件は処分の効力により、相手方につき回復の困難な損害をさけるため緊急の必要がある場合に該当するものと一応認められ、かつ本案についても理由がないとみえるときに当らないと思料されるとして、抗告人の右転任処分の効力は、同裁判所昭和四十年(行ウ)第一号転任処分取消請求訴訟事件の判決確定に至るまでこれを停止する旨の決定をなし、その決定は昭和四十年四月二十六日抗告人に送達された。

二、原決定の不当性

しかしながら、原決定は左記の理由のとおり不当かつ違法な決定であるから取消さるべきものである。

第一 本案について理由がないことが明白である。

一、報復人事ではない。

1 当教育委員会は、本県教育の進展、向上を常に目途として意を用いるとともに、特に人事の刷新充実は教育行政、人事管理上極めて重要な問題であつてこれがため毎年慎重審議しその年度末の小・中学校教職員の人事に関する方針並びに人事実施要項を作成し、それに基づき人事をすすめてきたものである。

特に厳正公平を旨とする退職勧奨計画の作成は人事方針及び実施要項の要諦であつてこれの推移がその年度の人事を左右するものであるといつても過言ではない。

しかも現行法上定年制がなく、また分限、懲戒等の事由がなければ教職員を退職せしめることは不可能であり、ただ許された手段としては勧奨による以外になく、この勧奨もそれに応ずるか否かは本人の自由意思であつてここに勧奨の困難性が存するのである。

2 昭和三十九年度末人事において、退職勧奨拒否者は、昭和四十年三月二十四日現在で三十六名、これを前年度と比較すれば急激な増加を示し、この傾向は退職勧奨を拒否し続ければ何年でも教職に留まることができる。云い換えれば拒否した者は得をするとの弊習が次第に広まり、多くの教育関係者の批判を生み、市町村教育委員会等からこれが是正を強く要望され、教育行政の衝にあたる当教育委員会としても何らかの措置を必要としなければならなかつたのである。

また、昭和四十年度の小・中学校教職員定数は、児童・生徒の減に伴ない減少を示し、退職勧奨者の増加は、教職員構成の老令化をきたし、更に新陳代謝を妨げ特に大学卒業の教員採用志願者にとつて教員となる事は狭き門となり、これを如何に処理するかは当教育委員会の重要課題であつた。

一方、福島県の財政はその七五%を地方交付税交付金に依存して、ゆう福でなく、年々の人件費の増加に伴ない、これに如何に対処するかは、県政当局者として大きな悩みでもあつたのである。即ち昭和三十九年十月には県総務部長名による知事依命の人件費の増加に伴なう物件費の節約が命令され、県財政に依存する当教育委員会としても関係各機関、学校に異例の通達をなしたのである。

3 前述した現状から全県的視野に立つて、昭和三十九年度末退職勧奨拒否者の増加を憂慮した教育委員会は三月二十四日各出張所長に対し、

退職勧奨拒否者については、今後優遇措置のできないことを知らせること。

退職勧奨拒否者については新たな配置計画を樹てること。この場合事情によつては管外に転出させることもあり得る。

なお、事情止むを得ない者については弾力ある措置を講ずること。

と電話をもつて指示をしたのである。

退職勧奨拒否者について今後優遇措置をしないとは、退職勧奨を拒否した者が翌年また翌年と拒否し、最後に勧奨に応じた場合に割増の(勧奨に応じて退職した人々に対する優遇)退職金と特別昇給とを実施していた現在までの方法を改め、優遇しない意であり(勿論一般退職金が支払われることはいうまでもない。)この方法は一部都道府県においては既に実施されており、県費を同じくする本県知事部局職員についても実施をみておるところである。

退職勧奨拒否者について新たな配置計画を樹て、事情によつては他管内に転出させることもあり得るとの意は、前述した如く、退職勧奨に応ずるか否かは本人の自由意思であり、もしも応じない場合は、今迄の人事計画に支障をきたし、その時点で新たに計画を立てなおし現任校にとどめておくか、転出を願うかの方法を考えなければならないわけである。この場合勧奨を拒否しそのまま現任校に留まつた場合の地域社会の批判、当該市町村教育委員会の人事に関する要望、あるいは本人の現任校在職年数、勤務成績、当該校の教職員の年令構成、家族状況等、それぞれ各人のおかれておる条件は異なるものがあり、一律におこなうものでなく、全県的視野に立つて本人の事情を充分考慮し弾力ある取り扱いを指示したものである。この場合すでに当初の人事計画は殆んど完成に近い状態であるのであるいは本人の意にそえない管外転出も予想してその旨を付したものである。

この様な全県的配慮を無視し、単に教育委員会の指示文言をわい曲して報復人事であると一方的に主張するならば、本人の希望しない人事は全て報復人事となり、かりに報復人事なる主張がとおるとなれば、今後の人事行政の運営に大なる支障をきたすものであることはいうまでもない。

二、白川角美には退職勧奨をしなければならなかつた。

1 白川は本年三月三十一日現在年令五八、五才で県下の最高年令であり、昭和三十九年度末人事に関する方針及び要項の一般職員は満五十五才以上の者については特別の場合のほか、退職を勧奨するという基準に合致し、また昭和三十七年度末以来本県の教育の刷新充実のため後進に道をゆずられるよう懇請してきた次第である。しかしその間毎年これを拒否し続け、同年齢の者がすでに三年ないし二年前に、私意を排して県教育行政のために協力されたにもかかわらず、強固に拒みつづけ勧奨に応ずるは本人の自由意思とはいえ県全体の公平の観点からみれば納得のできないものであつた。

白川は勤続年数三四年、今回の退職勧奨に応ずれば退職手当三八〇余万円、それにその後の年金は年額四一万余円、月平均にして三万四千余円の収入があり、それ以下にて後進に道をゆずられた人々と比較すれば当然大局的観点に立つて載かねばならなかつたのである。

また家庭状況も困るものでなく、財産状況も田一町三反、畑二~三反と宅地三六〇余坪、家屋九十坪を有し、退職後の生活も保障されたものであつた。

2 この意味から、河沼郡坂下町教育委員会、八幡小学校長、県教委両沼出張所長は、直接勧奨にあたる者として、誠意と条理をつくして懇請したが、「やめる意思はない」と強固に拒否され、後にのべるように、転出願はねばらぬ事情から、もしも退職を承諾されなければ転出を願わなければならない旨を伝えたが、その都度「やめる意思もなく転任する意思もない」との答であつた。

そのため、三月二十八日新たな人事計画を立て、交流として検討することとし、両沼管内の交流配置は確定していたので全県的調整による転任を考えねばならず、三月三十一日田村郡小野町立夏井第一小学校に配置することを決定した。

三、白川角美は転出させなければならなかつた。

1 白川は本年三月三十一日現在、会津坂下町立八幡小学校在職六年で、昭和三十九年度末人事に関する方針及び同要項の同一校六年以上の勤務者は永年勤続者として、交流の対象となる条項に該当し人事計画の当初から退職しない場合は、転出させる予定であつた。白川はその間、分校勤務もあり同一校六年ではないと主張するが、本校に勤務するか、分校に勤務するかは校務分掌として当該学校長が命ずるものであつて、同一校六年の基準に該当しないとの主張はあたらない。

2 八幡小学校長古川義夫(本年三月三十一日付退職)は、昭和三十九年度末人事組織の打合せ会の席上、八幡小学校は平均年令が他校と比較して高く、(約四二才)これを低下されるよう措置されたいと要望し、また会津坂下町教育委員会教育長藤山秀雄も同趣旨の要望を強くなしてきておるところであり、当教育委員会としてもこれが実現をはかる必要があつた。

3 また白川は昭和三十七年度末以来毎年退職勧奨を拒否し続けてきた関係上、両沼管内の校長等から「校長は素直に退職するのに、ある教員は退職を拒否して残つている。一体これでよいのだろうか。両沼管内の今後の教育はどうなるのだ。」という強い批判もあり、会津坂下町教育委員会としても強く白川の転出を要望していた。

4 以上のような理由により昭和三十九年度末人事計画において、白川は県下の最高年令でもあり、生活にも困らない等の種々の条件から後進に道をゆずつていただくか、あるいは転出していただくかの何れかの方法しかなく、県教育委員会としては一応退職していただけるものとして当初計画を作成し、後任人事を計画した関係から本人の拒否にあつて、計画に支障渋滞をきたし、新たに交流計画として検討することとし、両沼管内の交流配置は確定していたので全県的調整による転出を考えねばならず四月十一日付をもつて田村郡小野町立夏井第一小学校勤務を命じた次第である。

四、白川角美の転任発令が四月十一日になつた理由

1 県教員組合両沼支部は、昭和三十九年度末人事に関する退職勧奨該当者に退職勧奨の始まらない以前から、働きかけ県教職員組合中央執行委員長小沢一郎を代理人とする委任状なる用紙を交付し任免その他進退に関する一切の事項を委任させ、あるいは各学校ごとの人事対策委員会なるものを編成し、委員長小沢一郎より当該学校の人事対策委員に対し、委任状をもつて同様委任している。藤山坂下町教委教育長、八幡小学校長、県教委両沼出張所長が人事の件について当人に面談を求めると人事対策委員が委任状を提示、同席を求めるのが常であつた。

2 県教育委員会としては、公務員として一身に専属する自己の進退については代理・委任に親しまない行為であるとし、その都度、説得に努力をしたがきき入れず、そのため白川本人の真意や家庭状況等詳細に把握することができず、まして県教育委員会の指示の真意を伝えることは困難であり、転任の発令を四月一日にすることは白川本人に不利益になると判断し、真に話し合える場をもとうと努力したのである。

即ち、四月三日県教委事務局教育委員会室で県教育長と県教組幹部との話合が行なわれ、その結論として県教委は退職勧奨該当者の個人的事情を再調査して考慮する者は考慮する。しかし充分退職勧奨者と個人的に面接する機会を県教組は積極的に協力してもらいたいと要望し、県教組の代表もこれを了としたので、白川と個人に面接し、その真意を確認して県教委の態度を決する所存であつた。

なお、その間人事行政上の秩序の維持と将来優遇措置を受けられない場合の本人の不利益を考えて、引きつづき勧奨したものである。

3 しかし、前述の約束も実際には守られず県教委事務局学務課管理主事渡辺政三が四月五日、六日、九日、十日と両沼地区に出張し県教委両沼出張所長の助言者として両沼教組支部の組合員と話し合い、県教組代表との約束もあるので個人的に面接させて載きたいと願つたが情勢は相変らずの状態であつた。しかし県教委としても一応白川本人の退職に応じないとの意思を確認できたし、本人の実情も把握できたので十一日付をもつて当初計画どおり夏井第一小学校に発令した次第である。

五、以上をもつて明らかなように白川角美に対する転任処分は白川角美をその意に反して退職させようとして、不当な手段で行なつた退職勧奨が効を奏しないとみるや行なわれた報復的なものでは絶体なく、人事行政の全県的視野に立つた必要性から当然行なわれなければならなかつたものである。

また後に述べるごとく転任校においては教育効果の見地からどうしても昨年と比して一名の増加を必要とし、このことは白川を夏井第一小学校に配置する以前にすでに決定していたのであつて過員でなく欠員であり、過員という白川の主張はなり立たない。

よつて本案について理由がないことが明白である。

第二 回復困難な損害を避けるための緊急必要性はない。

一 白川角美は高血圧症の症状を訴えているが、実状は何ら勤務には支障がない。

昭和三十九年度の勤務状況は十四日の年次休暇があるのみで、本人が言う高血圧症を理由とする休暇はなく家事上の都合という理由によるものである。又健康上の理由による遅参早退もないことが明らかにされている。更に昭和四十年四月一日以降の健康状態については、高血圧症を理由として休暇をとり、遅参、早退したことがなく、体育の指導も何ら変りなく指導しているのであつて、学校の勤務に支障があるほどの健康上の理由はない。

また、転任処分の執行停止の決定の後本人訴えの症状が事実であり、勤務に支障があるかを把握することは、適正な人事管理上必要と認めて福島県教育委員会事務局両沼出張所長、松井孟始は、同両沼出張所管理主事、千葉友八に対し会津若松市内に在住する二瓶泰医師を訪問させ、白川角美の病状等について事情聴取を命じた。その結果は「動脈硬化は老人病であり、これはなおらない。血圧も一四〇~一五〇位で高血圧には入らない。だから勤務には支障がない」と言つているところから普通の勤務が可能なのである。二瓶医師は「治療をやめれば血圧も高くなるかも知れないという不安はある」と言つているが、田村郡小野町にも医師が居り、仮りに夏井第一小学校の近くに居住したとしても町うちまでバスで十五分の距離にあり、本人の月二回の治療は可能なのであつて本人が申し立てている高血圧症が夏井第一小学校に転任できない事由とはなり得ないのである。

したがつて本人の症状を理由とする回復困難な損害を避けるための緊急必要性という判断は当らないと考える。

二、白川の妻千代子は肋間神経痛を訴え、現在通院中であると申し述べているが県教委両沼出張所長の命をうけてこれが調査にあたつた両沼出張所管理主事、千葉友八が直接会津若松市内の診察にあたつた星弘美医師を訪ね、その事情聴取したところ妻千代子は「四月十九日に一回来ただけであつて、仕事ができないなどということはない」ということであり、日常家事に従事することは支障ないことが知られるし、事実家事に従事し、更に長男夫婦の農業従事中は二人の孫の子守りと炊事に当つているのである。

三、娘が肺結核で入院中であり多大の出費を必要とすると言つているが娘に対しては多少の出費はしていると考えられない。

現在肺結核で入院中の娘は、喜多方市で文房具商を営む片桐家に嫁いでおり、また入院に要する入院料及び治療に要する費用は結核予防法により全額国庫負担となつている。したがつて、白川が言う娘の病気のために多大の出費を必要とするということはない。多大の費用の援助はあるとしても、嫁いだ娘の入院費用は嫁いだ片桐家において負担するのが社会通念である。

四、白川角美は経済上の理由から単身赴任はできないと言つているが、経済的理由から単身赴任できない理由はない。

1 資産状況は、田地一町歩、畑数反を有し主として長男夫婦が、農業に従事し、家族八名が一年間食べるに余る収穫を上げ、農業からの収入もあるのである。更に家屋、宅地も白川角美所有のものである。したがつて俸給のみによつて生活している公務員と比較するとき遙かに生活余裕があると認められる。

2 本人は現在六七、七〇〇円の俸給を受けており、未娘が高校を卒業し家事に従事しており、子どもの教育のための支出はなく、これを生活費に当てることができる実状である。

3 白川は相当の借財があり、返済がため生活が圧迫されていると、述べているが借財は本人の不恕意によるものであつて赴任することのできない理由としてはとるに足らない。

4 白川は単身赴任すれば下宿料、通勤費等の費用がかかることにより不利益を受けるといつているが本県の同じ教職員について昭和三八年一月二三日御庁がなした「公務員は、その自宅から通勤することを保障されて任用されたものではなく、むしろ今日の社会において教職に従事する公務員は自宅からの通勤できない任地に転任を命ぜられることが予定されているといつても過言ではなく、本件の場合やむを得ざる措置であり、この程度では法律上の不利益処分ということはできない」と判示されているごとく職を公に奉ずる公務員としては自宅から通勤できない任地に転任し、多少の支出を伴うからといつて、不利益に当るという主張は赴任することのできない理由としては当たらない。

5 白川は老母を残し、更に長男夫婦のみに農地の管理耕作させることに精神的不安と苦痛を感じると言つているが相当年令の長男夫婦と二十才になる未娘が居り、老父母の看護はもちろん農地の管理耕作は十分でき、白川が転任後、時折り実家に帰れないほど転任先の小野町は遠くないのである。こうした私生活の不如意も一般に職を公に奉ずる公務員たる者の免れ難いところである。

以上のことから経済的理由より、白川にとつて回復困難な損害を避けるための緊急必要性は認められない。

第三 白川角美の旧任校、新任校に関する主張は事実に反する。仮りに事実であるとしても、公共の利害の問題であつて、個人の利害に関するものではなく、回復困難な損害ではない。

一、旧任校会津坂下町立八幡小学校においてはすでに後任を発令ずみであつて学校運営に支障はない。

白川の旧任校八幡小学校における教職員組織は、男子教員六名、女子教員八名であり、男子教員の平均年令は、会津坂下町立小中学校九校中最も高く、学校長及び坂下町教育委員会教育長は、昭和三十九年度末人事にあたつては、教職員の平均年令を下げ、気風停滞を刷新し、効率的な学校運営を期する必要性を痛感し、年度末人事に関する打合せ会の折、県教委両沼出張所長に強く要望したことはすでに述べたとおりである。白川の転任発令後はその後任として三月末の人事の過程において、すでに内定していた、大沼郡金山町立水沼小学校教諭高橋章三十一才を四月二十一日付で八幡小学校教諭に発令したが、四月二十一日付とした理由は、白川の赴任拒否による八幡小学校内における無用の混乱をさけるためであつて、かといつていつまでも放置できない状態にあつたからである。

したがつて白川が夏井第一小学校に転出したとしても、八幡小学校における学校運営に支障をきたすことはなく、かえつて本人が今回の執行停止決定により八幡小学校におること自体がかえつて支障をもたらすものである。また、昨年と同じ男子教員を配当されているので、宿直勤務が著しく負担になるという主張はあたらない。

二、更に新任校田村郡小野町立夏井第一小学校においては、教職員数十七名中、男子教員は七名、女子教員十名であつて、男女の比率を改善するため男子教員を採用したいということ、更に四〇才以上の教員が教頭のみであるので、経験豊かな男子教員を入れて組織の充実をはかりたいという、更に当校は分校を有し、本校、分校の連絡事務が多いので学校運営に支障を来たすことが多いので一名増員方の意見を、小野町教育委員会に要望し、更に小野町教育委員会においては、夏井第一小学校の組織からみて、当然の要望と認め県教育委員会事務局田村出張所長に一名増員かたを要望した。

県教育委員会はかねてからこの要望によつて検討していたが、三月二十八日に至り、全県的立場から夏井第一小学校の特殊性を認め一名増員することとし、配当したものである。したがつて白川の転任をする理由がないという主張及び過員であり赴任しなくても夏井第一小学校の学校運営に支障ないとの主張はあたらない。なお一名増の学校は単に夏井第一小学校のみでなく、それぞれの当該学校の特殊事情によつて四十数校に及んだ次第である。

第四 本件の執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすものである。

一、白川の昭和四十年四月十一日付をもつてなした転任処分に対し、福島地方裁判所がなした本件の執行停止の決定によつて、新任校の夏井第一小学校においては、学校運営に多大の支障を来たした。

即ち、白川が担当する教科は他の教員が自己の分掌事務にあてる時間をさいて、指導に当つており、また白川の分掌事務については、各係員が分担しこれが処理に当つており、事務量が多く負担となつている現状である。更に地域社会においては、早く白川が赴任し、正常な学校運営の中で児童の教育に当つてほしいと強く要望しているところから見ても、福島地方裁判所がなした本件の執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼしているということができるのである。

一方旧任校八幡小学校においては、白川教諭の転任発令後四月二十一日付をもつて大沼郡金山町立水沼小学校教諭高橋章(三十一才)を八幡小学校へ転任発令し、四月二十六日着任したのであるが、本件の執行停止により事務分掌の引継ぎができず、地域住民を代表して教育行政に当つている教育委員会の計画は実現されず、高橋章教諭の不安はもとより更には学校教育に対する父兄の不安の念を増加せしめている次第である。

単に個人的理由により住民の要望に答えるべく執行した教育委員会の計画に支障を来たしたということは、公共の福祉に重大な影響を与えたと言わなければならない。

二、教育行政は県民の信託を得て、教育効果を第一義として行なうものであり、個人の利害を中心として行なうものではない。

県教委が昭和四十年四月十一日付をもつて発令した転任処分が、白川主張のごとく不利益処分であるとして執行停止の判断の理由となるならば、個人的な理由がすべて不利益に当り、今後の人事計画にもとづく転任処分が不可能になることは明らかである。

個人的な理由が不利益となるならば、職を公に奉ずる公務員は全体の奉仕者たる性格は失われるであろうし、常に個人の利益に合致しないものに対しては転任発令ができず、数多い学校がそれぞれ教育機能を十分に発揮できるような、適切な職員の配置をしなければならない教育行政上の責任者たる県教委としては、県民に対する責任を負うことができなくなるであろう。

第五 なお、福島地裁が執行停止の決定をするに当つて、県教育委員会に意見書の提出を求めたのが、四月十二日の午後三時頃であつて、期限は翌日までとのことであつた。当教育委員会はそのため、充分なる資料等を準備する機会を与えられず、その点遺憾に思う次第である。

別紙(三)

昭和三九年度末小中学校教職員人事に関する方針

福島県教育委員会

教育に対する県民の期待と要望にこたえ、学校教育の刷新充実をはかり、本県教育水準の向上を期するためには、教職員組織の充実強化が行なわれなければならない。

本委員会は、市長村教育委員会と緊密な提携協力のもとに、下記方針に基づき年度末教職員人事異動を行なうが、これが実施に当つては、広く県民各位の理解と教育関係者の積極的な協力を切望してやまない。

一、基本方針

(一) 全県的な視野にたつて、適材を適所に配置し、教育効果の向上をはかる。

(二) 教育の機会均等の理念に立脚して、地域差、学校差の解消につとめ、各学校の教職員組織の充実と均衡化をはかる。

(三) 教育委員会の自主性を堅持し、厳正公平な人事を行なう。

二、重点

(一) 優秀な教職員の確保につとめる。

(二) へき地学校の教職員組織の充実を期するため、都市、平地、へき地相互間の交流を促進する。

(三) 新進有為な人材の登用をはかる。

三、実施方針

(一) 採用

1 教員については、資格、人物、健康、成績等に基づいて選考し、その配置の適正を期する。

2 事務職員については教員に準じて行なう。

(二) 交流

1 免許状別、性別、年齢構成別、給与平均額等の均衡をはかるため、つとめて広域にわたつて交流を行なう。

2 都市と農村及びへき地との計画的な交流を行なう。

3 学校種別間の適正な交流を行なう。

4 同一校相当年数勤務者の適正な交流を行なう。

(三) 昇任

1 校長については、その職責の重要性にかんがみ、資格、人物、指導力、勤務実績、健康等のすぐれた者のうちから厳選する。

2 教頭については校長に準じ厳選する。

3 教員については免許状の取得状況及び勤務実績によつて選考する。

(四) 隆任及び退職

勤務実績、年齢及び勤務年数等を考慮して慎重に行なう。

四、この方針の準用

この方針は、昭和四〇年度における年間人事についても準用する。

別紙(四)

昭和三九年度末小中学校教職員人事実施要項

一、採用

(一) 教諭

1 大学新卒業者は原則として出身管外に採用する。

2 一般の者を採用する場合は四〇才未満を原則とする。

3 採用志願の手続き及び選考試験

昭和四〇年度福島県公立学校教員採用選考試験実施要項による。

(二) 講師

講師は教諭の適格者が得られない場合に採用するものとし、その期限は六ケ月を限度とする。但し、勤務成績を勘案して期限を更新することができる。

なお現に採用されている者についてもこれに準じて取扱う。

(三) 助教諭

助教諭は教諭の資格を有する者が得られない場合に講師に準じて採用する。

(四) 補充教員

次の各号に該当する場合は期限付とし、講師又は助教諭として採用する。

1 産休者の補充教員

2 休職者及び休暇者の補充教員

3 季節分校の教員

4 その他必要と認めて補充する教員

(五) 次に該当する者は原則として採用しない。

1 自己便宜によつて退職した者で一年を経過しない者

2 就職を拒否し、一年を経過しない者

3 教職に不適当と思われる疾病異常のある者

(六) 事務職員

次の各号に該当する者のうちから本県人事委員会の選考を経て採用する。

1 本県人事委員会の行なう採用試験に合格した者

2 前号以外の者で本県人事委員会の行なう選考のための考査に合格した者

但し、この場合は下記の基準によるものとする。

(1) 新制高校卒業以上の者

(2) 年齢は原則として一八才以上三〇才までの者

二、交流

(一) 一般交流

1 校長及び教頭については、その職の重要性を考慮し適正を期する。

2 学校種別間の交流は慎重に行ない、免許教科、男女の比率等教職員組織を著しく低下することのないよう特に配慮する。

3 学校の統廃合の場合は原則として関係校長は他の学校に転出させる。

4 大学卒業者が免許関係で助教諭勤務中の者については配置替えを考慮する。

5 学校事務刷新のため事務職員の適正な交流を行なう。

6 同一校相当年数勤務とは、およそ六年以上とする。

7 二親等以内の者の同一校勤務は原則としてさける。

8 現校在職二年未満の教職員については原則として交流を行なわない。

(二) へき地交流

1 県内の地域を次のとおり区分する。

(1) 各管内の学校をA、B、Cの三地区に区分する。

A地区学校 市、主要町村の学校

B地区学校 平地の学校

C地区学校 へき地の学校(人事委員会、へき地教育振興会、出張所の各指定学校)

(2) 全県下の学校をA、B、Cの三地区に区分する。

A地区学校 旧四市の学校(福島、郡山、会津若松、平)

B地区学校 A、C地区以外の学校

C地区学校 各管内の人事委員会指定のへき地校

2 地域交流

(1) 昭和二八年度以降採用者のうちで、へき地学校勤務の経験のない者については、都市又は平地の学校に二年以上勤務の後に原則としてへき地学校(管内外)に転出させる。

(2) 相当期間へき地校に勤務し、都市又は平地の学校に転出を希望する者については、優先的に考慮する。

相当期間とは校長三年以上、教員二年以上(但しへき地教育振興会指定及び出張所指定のへき地校は三年以上)とする。この場合断統も通算する。

(3) 南会津、両沼、耶麻、石川、東白川等の管内のへき地勤務者の転出については特に考慮する。

(4) 管内の地域交流は1の(1)の区分によつて行なう。

ただしAからA、CからCの交流は原則として行なわない。

(5) 管内の地域交流は1の(2)の区分によつて行なう。

ただしAからA、CからCの交流は原則として行なわない。

3 へき地派遣制度

都市又は平地の学校に勤務する教員のうち成績優秀な中堅教員を選考し、へき地校に派遣する。

なお当該教員が相当期間勤務し、その勤務実績良好な場合は抜てき人事等の優遇措置を講ずる。

4 名簿作成

へき地交流の資料とするため、出張所及び本庁に次の名簿を備えおくものとする。

(1) 昭和二八年度以降採用者でへき地学校勤務者名簿

(2) 昭和二八年度以降採用者でへき地学校勤務の経験のない者の名簿

(3) へき地校派遣者名簿

5 履歴書記載

出張所長は、2の(2)のへき地勤務期間を終り、都市又は平地の学校に転出した者について、その者の履歴書にその旨の証明をするものとする。

三、昇任

(一) 校長

1 資格要件

(1) 年齢は四〇才以上五三才までを原則とする。

(2) 小学校教諭一級普通免許状又は中学校教諭一級普通免許状を所持する者であること。

(3) 教職年数一五年以上の者であること。

(4) 教頭又は教務主任の経験二年以上の者であること。

但し特に優れた者はこの限りでない。

(5) へき地校二年又は農山村校五年以上の経験を有する者であること。

2 昇任に当つては勤務実績及び選考試験の成績等を勘案し、全県的立場よりみて適格者と認めた者から行なう。

3 昇任に当つては、その地域に居住して校長職に専念できる者を優先的に考慮し、原則として他管内に配置する。

4 結核管理要項により要観察以上(指導区分B以上)の判定を受けた者は選考しない。

(二) 教頭

1 教頭は校長に準じ厳選するよう市町村教育委員会と協議するものとする。

2 資格要件

(1) 年齢は三五才以上四五才までを原則とする。

(2) 小学校教諭一級普通免許状又は中学校教諭一級普通免許状を所持することを原則とする。

(3) 教職年数一〇年以上の者を原則とする。

(4) へき地校又は農山村校の経験を有することを原則とする。

3 同一校での起用は原則として行なわない。

(三) 教諭

1 四〇才以上の者の昇任は特別せん議によるものとする。

2 大学卒業者の助教諭勤務中の者についてはできるだけ昇任の途を講ずる。

四、降任及び退職

本人の希望によるほか次の基準により慎重に審議する。

(一) 勤務状態、健康及び家事都合等により職務遂行に支障があると認められる者。

(二) その職に必要な適格性を欠くと認められる者。

(三) 相当年齢に達した者。

1 校長

(1) 満五六才以上の者については特別の場合のほか退職を勧しようする。

(2) 満五五才の者についても退職を勧しようする場合がある。

2 教諭、事務職員

(1) 満五五才以上の者については特別の場合のほか退職を勧しようする。

(2) 満五三才以上の者についても退職を勧しようする場合がある。

(3) 満五〇才以上の扶養義務者(生活主体者)でない者で、年金年限に達した者については、特別の場合のほか退職を勧しようする。なお年金年限に達しない者についても考慮する。

3 助教諭

(1) 満五〇才以上の者については退職を勧しようする。

(2) 期限付採用及び臨時的任用の者で、年度末に退職した者については、実状により再採用することができる。(講師についても同じ。)

4 講師(再採用)

(1) 満五八才以上の者については退職を勧しようする。

なお五五才以上の者についても退職を勧しようする場合がある。

(2) 満五〇才以上の扶養義務者(生活主体者)でない者についても退職を勧しようする場合がある。

5 事情によつては、相当年齢に達しない者についても退職を勧しようする場合がある。

五、結核性疾患又は疾病傷害のために休暇を与えられている教職員が、規定の有給休暇の期間を超えてなお休養を要すると認められる者については、当該有給休暇の期間満了前において、遅滞なく休暇手続きをとるものとする。

但し校長にあつては、結該性疾患の場合は当該休暇が六ケ月を経過した日の翌日、疾病傷害の場合は三ケ月の休職期間を経過した日の翌日をもつて教諭に降任し、引き続き休暇を与えるか休職させるものとする。

原審決定の主文および理由

主文

被申立人が昭和四〇年四月一〇日申立人に対してなした、福島県河沼郡会津坂下町公立学校教員を免じ、同月一一日同県田村郡小野町公立学校教員に任命し同町立夏井第一小学校に補するとの転任処分の効力は当裁判所昭和四〇年(行ウ)第一号転任処分取消請求訴訟事件の判決確定に至るまでこれを停止する。

理由

申立人提出の疎明資料によると、本件は処分の効力により申立人につき回復の困難な損害をさけるため緊急の必要がある場合に該当するものと一応認められ、かつ本案についても理由がないとみえるときに当らないと思料されるので、主文のとおり決定する。

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